先日の日本経済新聞に高知のとある私立大学で、「教員評価システム」を導入して、評価を点数化し、賞与に反映させた記事が掲載された。総合評価は設けないが加点方式、絶対評価である。システム自体の評価や成果のほどは、期間を置く必要性があるだろうが、商品供給の観点からは徹底したアカンタビリティーと品質管理の責任がある。この大学の理事長はかの橋本大二郎高知県知事。トップの能力とリーダーシップが絶対なのかと気持ちを萎えさせた嫌いもあったが、いまは複雑な心境ながら、教学ガバナンスの機能に興味と希望を寄せ、結果を大変楽しみに野次馬になっているのが、歯牙ない私学の一職員の私である。
大学を震撼させる事件が新聞紙上を賑わせている。最近まで「役所」「マスコミ」と並び称されてきた“聖域”に位置する「大学」の全貌が、大学設置基準の大綱化から10年にしてやっと外圧によって白日の下に晒されようとしている。決してスケープ・ゴートとして運悪く選ばれたわけではない。来るべきものが来たという感は否めない。
セクハラと入学試験とアカンタビリティー(経営説明責任)が引っ掛かった。危機管理に疎い、いやその認識を必要としなかった孤高なる「大学」が槍玉に挙げられた。規制緩和と自由化(保護策撤廃)は、大学の倒産を促すと言われてきているが、倒産する大学は未だお目にかかったことはない。しかし、昨今大学の乱立を目の当たりにして、危機感を感じずにはいられない。自分に自信がないからだ。自分の大学に使命感を感じられないからだ。外資系の損保が、大学向けに損害賠償や訴訟も補償する商品を売り出した。鼻の利く連中は仕事が上手い。「大学」は今が旬ということだ。
不透明と言われる「大学」の体質が社会で話題になっている。学校会計基準の特殊性やエンクロージャー、説明責任の不在は、正に「象牙の塔」の特権だったのか?料金に見合った商品を提供しているか、妥当なサービスを心掛けてきたか、当然の問いかけが不要だったのだ。内部自浄機能不在。すべてが象牙の塔として護られ過ぎたツケである。
私学(私塾)の理想から乖離し、大学の旨味(既得権益)を忘れられずに、寄附行為の解釈に幅を利かせて、トップの交代が禅譲のスタイルでままならないような学校法人もある。未だ、倒産した大学はないようだが、そろそろミッションの途絶えた大学からレッドゾーンに突入するだろう。
「大学」に関わる全ての者が智慧を集めて、果敢に立ち向かわなければならない時が、奇しくも外圧によって訪れた。一職員にできることは限りがあるが、何もしなければ変わることはできずに替えられてしまうのだ。正念場と心得ねばなるまい。「一所懸命がんばれば、必ず実現する。」と信じる。
(文教大学 松本 和俊)
「もう少し早く、大学自身が生まれ変われなかったのかと残念です。現場の動きが鈍く、社会からの風をできるだけ避けようとする。大学の自治といわれるものがあるのですが、具体的にはそれが時代に背を向けた教授会自治になるなどしてさび付いてしまい、日本の高等教育を空洞化させています。・・・(こうした研究教育機関の役割を果たしていない)日本の大学は護送船団方式による惰性で危機的な状況を抱えているといえます」、と、かの中嶋嶺雄氏はインタビューに答える。(日本経済新聞2001年7月29日)
「もう少し早く」とは、少しでもこの業界の動向を見回した大学人ならば感ぜずにはいられない心情を端的に表した表現ではないか。オープンドアになって学生募集に汲々とする大学であれば、「もう少し早く」地元の高校生・父母にアピールしたかった。難易度がみるみる下降して授業崩壊に直面する危機にある大学であれば、「もう少し早く」個性化による競合大学との差別化を図りたかった。さらには、グローバル競争に耐え得ない旧態依然とした教育研究力しかない大学であれば、「もう少し早く」国際通用性のある職務遂行力をもったスタッフを確保したかった。特殊法人改革が具体化しつつあるいま、「わが国最後の護送船団」の惨憺たる末路が示されている。これでは国民から既得権維持への支持を得られるはずはない。
護送船団解体の生き証人となる我々は「正念場の10年」を迎えている。この10年は奇しくも、世界史的にはデジタル革命によるグローバル化、日本史的には経済敗戦からの「痛み」をともなう復興、業界的にはマーケットたる18歳人口のさらなる量的減少と質的変容と重なっている。否、だからこそ船団の解体なのであろう。では、我々乗組員はこの解体作業にどう関わったらよいのか。
「ヘッドハンティングされる人の共通項は、自分でplan−do−seeのできる人たちです」。あるテレビ番組で放映された転職産業を取材したルポライターの言である。ミッションをもとに、パッションをもって、PDSサイクルをアクションすることと聞いた。その姿は時代の潮目に向かって自力で舵を切り続けるたくましいクルーを彷彿とさせる。さもなくば、時代の大波に呑み込まれ、船体は海底に沈んでしまうだけだ。今年FMICSは創立20周年を迎えた。最初の会名は「まずはじめよう会」。以来、「高等教育を少しでも良くしたい」というコンセプトのもと、東京・中京・関西で416回の例会を重ねてきた。それは、まずはじめている(た)仲間・先達からの実体験が会員諸氏を行動へと駆り立ててきた積み重ねの歴史でもある。
「もう少し早く、自分自身が生まれ変われなかったのかと残念です。職場での動きが鈍く、社会からの風をできるだけ避けようとしました」。そんな自己評価を下す同僚を少しでも減らすためにも私たちはひたすらアクションを続けなければならない。まずはじめよう!
(中央大学 山本 明正)
●やっとかめやなもFMICS名古屋(YFN)の《学びのカタチ》を束ねる恒例の第14回YFNシンポジウムをご案内します。
●昼の部は、聖徳学園岐阜教育大学でのシンポジウムです。懇親会は長良川上流の鮎料理やなで舌つつみ。洞戸村の禅道場での夜プロは、YFN主催・第1回洞戸教育文化フォーラムとして、村長さんや地元県議や地元の方にも参加していただき、初等中等高等教育界からそれぞれ現代の教育を語って頂きます。FM1CSが村おこし・村の文化発信に一役担うという心です。オールナイトそしして、ご来光遙拝。プログラムは目白押しです。
【日時】 平成13年9月8日(土)〜 9日(日)
12:00 | 受付開始 | 羽島キャンパス 会議室 |
YFNシンポジウム
主催 高等教育問題研究会名古屋支部
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16:30〜17:30 | 懇親会 |
板取川 洞戸観光やな |
18:00〜20:30 |
第1回洞戸教育文化フォーラム
主催 高等教育問題研究会名古屋支部
| 岐阜県武儀郡 洞戸村下洞戸 東海禅道場 |
21:00 | 入浴タイム | |
22:30 | インド古典音楽サントゥール演奏会 演奏 沙羅双樹 | |
0:00〜4:30 | オールナイトYFN | |
5:00 出発 17:30 解散 | 朝からのプログラム
高賀山へご来光遙拝 高賀神水庵喫茶、慈雲寺参拝・普化尺八拝聴(伊達政宗と武田信玄の師を輩出)、昼食水琴亭(早大0B原三渓、ゆかりの料亭)、 車で移動1時間 美濃加茂市 早大0B坪内逍遙公園、 車で移動1時間 八百津町 早大0B 杉原千畝記念館訪問(日本のシンドラー、人道の丘) 17:30 名鉄犬山駅解散 |
【参加費】
シンポジウム&フォーラムのみ 無料
懇親会 5000円
8〜9日宿泊参加 15000円(バス代・宿泊代・昼食代を含む)
【申込&問い合わせ先】
高等教育問題研究会名古屋支部事務局 nhayashi@ha.shotoku.ac.jp まで直接お申込ください。
【お願い】
オールナイトYFNの参加者には、5分間以内のスピーチをしていただきます。スピーチの内容をA4縦判(様式自由)のメモにして、当日コピーを30部程度ご用意ください。
●FMICS Staff Development 略して 「SD」は、月例会とは別に、原則として第3週の木曜の夜に開催されている勉強会です。超競争時代をしたたかに活き抜くためにも、大学人一人ひとりの努力を束ねる場です。●今月からは、知る人ぞ知る『英国高等教育制度検討委員会(デアリング委員会)報告』(通称デアリングレポート)を読み込みます。大学審議会「21世紀答申」(平成10年10月26日)の下敷きになったともいわれるレポートからは、学ぶことが多いことと存じます。これを機会に、あなたの座標軸をブラッシュアップはいかがですか。奮ってご参加下さい。
(1)メディアチェック
あなたのアンテナが何かを感じた新聞・雑誌等の教育&経済トピックスを、切り抜いて持ちよりディスカッションします。トピックスは厳選して1件、A4縦判にコピー(15枚程度)して、氏名と簡単なMEMOを付してご持参ください。
各自5分間程度のコメントをしていただきます。
(2)テーマを定めた継続的な勉強会
1997年度は国立教育研究所編『日本近代教育百年史』を、1998年度は工学院大学と拓殖大学の沿革史を、1999年度前半は『戦後の大学論』を読み進めてきました。そして、1999年度後半からはぐっと現代に近づき、中教審、臨教審、大学審等の「答申」を読み込んできました。今月からは、『英国高等教育制度検討委員会(デアリング委員会)報告』(通称デアリングレポート)を読み込みます。
【日時】 平成13年8月30日(木) 午後6時30分〜9時
【会場】 工学院大学・新宿キャンパス 高層棟27階2710ゼミ室
【コーディネーター】 桜美林大学大学教育研究所 研究員 出光 直樹
【テキスト】 『英国高等教育制度検討委員会(デアリング委員会)報告』
*コピー(実費)をお渡しします。
【申込先】 出光 直樹 idemitsu@obirin.ac.jp
【日時】 平成13年9月22日(土) 午後2時30分〜6時
【会場】 工学院大学新宿キャンパス
【講師】 前日本私立大学連盟事務局長 日塔 喜一
●私立大学は沈没する。もはや、このコピーが荒唐無稽なモノであると思う私学人はいないだろう。とはいえ、そんなことは“内”に限ってはありえないと、あたかもどこの火事のことのように思っている私学人も少なくない。
●いま、わが国の高等教育界は、私たちの想像を遥かに超える変化の渦中にある。この変化は、“内”という視座からは決して見えるモノでない。あらためて、THINK BIG に、競争的環境と機会均等という言葉の意味を考えてみたい。
●講師は、前日本私立大学連盟事務局長の日塔喜一さんにお願いしました。日塔さんは、私大連盟職員としての36年間を、教育の機会均等に拘り続け、私学のために尽くされてこられました。この3月に定年退職され、長年の膨大な仕事を『機会均等へ向けて』(開成出版・2001.7)にまとめられました。
●激動の時代だからこそ、私たちは初発の原像に立ち返りたいものです。歴史は明日を語ってくれます。日塔さんには、私立大学がその存在を問われたターニングポイントとその前夜を語っていただきます。
●以下、『機会均等へ向けて』から、日塔さんのエールを少し長くなりますが引用させていただきます。
私学は歯を食いしばって懸命に工夫を凝らしている。努力している。国の投資が不充分な中で精一杯頑張ってもいる。しかし、このまま推移すると愈愈存続が厳しい。一部に元気な学校もある。鼻息も荒い。しかし、すべての人々を高めていくには、それだけではまにあわないのである。国立が私学化して建学の精神を高揚するのでない限り、これまでもそうであったように、私学がこの部分をしっかり受け継いでいかないと、精神の荒廃を招き、わが国はジワジワと崩壊の一途を辿っていくしかなくなる。 福澤が大隈が新島が、そしてすべての私学の建学の精神がなくなったとしたら、それでもわが国は存続できるのだろうか。
今日の大学の大衆化にさまざまな問題を感じている人は多い。しかし,多くの人々が高等教育を受ける事で,人類全体の知的能力や判断力のレベルが上がり,人間としての社会性や倫理観の向上が期待されるのである。ましてや,自主独立の意気高き私学は,国にとっても個人にとってもかけがえのない存在だ。歴代のアメリカの大統領も異口同音に「国民が,すべてその生涯の何処かで高等教育にアクセスできる」社会を実現する,と述べている。そして本項で垣間見たように彼らは,その卓越した奨学金制度をバックに,着実にその高邁な理想に近づきつつある。日本も立ち遅れてはいられない。
OECD教育調査団の『日本の教育政策』その中に,「日本における国の投資配分の最大の誤りは私立大学より国立大学に重きを置いている点で,これを是正するための方法は,私立・国の区別を解消することである」という一節がある。
わが国は,これまでの文教政策を大転換し,必要な法改正を可及的速やか行うなどして,世界の国々がそうしているように,機会均等を速やかに実現ていくことを求められているように思われる。
●今年も世田谷学園との学園祭ジョイントシンポジウムを開催します。中学生が企画の主役です。大学の授業を体験してもらい、ありのままの感想や率直な疑問を語ってもらいます。彼らが大学生になっている6年後とその未来を見据え、FMICSからのエールを送ります。FMICSならではの企画です。
【日時】 平成13年10月 28日(日) 27日(土) 午後1時〜3時
【会場】 世田谷学園中学校高等学校